バリ舞踊(レゴン・トランス:パラダイス・ダンス) -1-
バリ舞踊は、バリ島でバリ・ヒンドゥー教の儀式や冠婚葬祭の際に演じられる踊りです。
『芸能の島』でもあるバリ島。毎日、島のどこかでお祭りがあり、音楽や舞踊が上演されています。 そんなバリ舞踊は、13世紀から15世紀にかけて栄えたマジャパヒト王国の文化が元になっています。 カンボジアのクメール王国やタイのアユタヤ王国などと並んで、東南アジア文化の黄金期を築いたマジャパヒト王国。 王国が滅びた後も人々はバリに逃れ、その文化を今に伝えているのです。 また、バリ島はもともと自然の力が強すぎて人の住める島ではなく、お祭りを行なって音楽や舞踊を奉納し、初めて人が住めるようになったという伝説もあります。 バリ舞踊を踊ることは、人間が自然と共に生きていくためのかけがえのない手段でもあります。
今日のバリ舞踊は、宗教的な重要性に応じて、「ワリ(Wali)」、「ブバリ(Bebali)」、「バリ・バリアン(Balih Balihan)」の3段階に分けられます。
・ ワリは、寺院で儀式の際に奉納される神聖な舞踊で、祭礼では寺院の一番奥で舞わ れます。
・ ブバリは、宗教性が強い儀式のためのストーリー要素が入った舞踊と舞踊劇で、寺 院の中ほどで上演されます。
・ バリ・バリアンは、芸術としての舞踊と舞踊劇で、儀礼とはあまり関係なく寺院外 のワンティラン(集会場)で舞われます。
これら3つの様式が2015年に「バリ島における伝統舞踊の三様式」としてユネスコの無形文化遺産に登録されました。
「芸術の村」と呼ばれるウブドでは、毎晩のようにあちらこちらで伝統芸能の定期公演が行われています。自分は、ウブド中心部にある「ウブド王宮」でバリ舞踊を観てきました。ウブド王宮では毎日、日替わりで4つのグループがバリ舞踊の定期公演を行っています。
公演の料金は100,000ルピア(約810円)で、ウブド王宮の入口でチケットを買います。チケットを買うと日本語版の劇の解説書をもらえます。19時30分からの公演でしたが、人気グループの公演は混み合うことが多いとのことで、30分前に入場し席を確保しました。
この日の公演は、「パンチャ・アルタ・グループ(Panca Artha Group)」という劇団による木曜日の公演でした。このグループは水曜日と木曜日にウブド王宮で公演を行っていて、各曜日とも演目が違います。木曜日の公演は「レゴン・トランス:パラダイス・ダンス(Legong Trance : Paradise Dance)」というもので、タリ・ルパスと呼ばれる演目がひとつひとつ独立した踊りと、舞踊劇の組み合わせの公演です。
この木曜日の公演の、演目名にもなっている「レゴン・トランス(Regong Trance)」。もらった解説書によると、
悪人たちの傍若無人な振る舞いなどで、全世界が様々な災難に見舞われているのを知った天国からの神々が、芸術的精神を広め全世界の安寧を保つために地上に舞い降りました。バリ全土に神々が普及させた芸術的精神は従来から善を表すものとして加護され、現在もバリヒンドゥー教の信仰とは切り離せないものになっています。スルガウィの歌声と共に、女神の象徴である2人の美しい踊り手(レゴン)がトランス状態の中、しなやか、かつ弱々しき動きで踊り始めます。この踊りは、神々が全人類の安寧、繁栄に対して慈悲と恵を与える物語を表現しています。
時間ぴったりに、ガムラン奏者がおもむろに席に着き、各々楽器の調節などを行います。
まずは「プマンク」と言う、白衣に身を包んだ僧侶と、「グルンガン」という、レゴンの冠を持った付き添いの女性たち、そして真っ白な衣装に身を包んだ少女二人が厳かに入場してくる場面から始まります。
僧侶が場を清め、聖なる冠「グルンガン」を清め、2人の踊り手を清め、その冠を2人の頭上に被せたときから少女たちは人間ではないものに憑依し、そして目を瞑ったまま、舞い始めます。まったく眼を閉じたまま、スルガウィという、女声の唱う声に合わせて、最初は静かに、徐々に激しく、2人は同じ動きを繰り返します。これは、2人の踊りの習熟度が高いことももちろんですが、まったく見えない状態のまま2人が同じ動きを一糸乱れず繰り返すという神秘性、つまり、人間ではないものに憑依されているからこそ出来る動き、ということを表しているそうです。
女神の象徴である2人の踊り手が、神々が全人類の安寧、繁栄に対し慈悲と恵みを与える物語を表現しているそうです。
激しく舞ったあと、踊り手が急に失神。そこでまた僧侶が登場し、人間に戻った少女にティルタ(聖水)をふりかけ、最後に観客にも清めのティルタと花弁を撒き、「レゴン・トランス」は終了しました。